ライフデザインに効く科学に触れる@ZAGUMI セッションレポート ライフデザインに効く科学に触れる@ZAGUMI セッションレポート

ZAGUMIセッション第2回は、
「生活や健康の知恵を最先端の研究から得てライフスタイルをデザインする」をテーマに
慶應義塾大学特任講師の早野元詞さんをゲストにお招きし、
「老化」「サイエンス」「幸せ」という3つのキーワードを軸にセッションを行いました。

ゲスト:早野 元詞
ゲスト 早野 元詞 慶応大学医学部 特任講師
ファシリテーター:田村 英彦
ファシリテーター 田村 英彦 (株)ふろしきや 代表

― 「老化」を日常医療に役立てたい。ごきげんに生きるためにで繋がったZAGUMI。

―「老化」を日常医療に役立てたい。ごきげんに生きるためにで繋がったZAGUMI。
田村英彦:(以下 田村)
皆さんは普段、研究者と直接話す機会もあまりないと思います。距離を感じる方もいるのではないでしょうか。
登壇者である彼、早野元詞(はやのもとし)さんはもともと老化や健康寿命の研究を重ねてきた方です。アメリカ留学も重ねさまざまな知見をお持ちなので、面白い質問にも答えてもらえると思います。
早野元詞:(以下 早野)
普段僕は大学にいるので研究者や関係者と接する機会が多いので、今日は営業職の方やヨガ講師などいらっしゃるとのことで緊張しています(笑)改めて、早野元詞と申します。本日はよろしくお願い致します。
出身は熊本県で、熊本大学の生物学を専攻していました。大根を育てたりイモリを育てたりしていたのですが、すべての生命体には必ず老化が起きます。なぜ人は年をとるのかという純粋な興味から、老化の研究をしています。
田村:
私と彼は大学院の同級生なんです。10年ぶりですかね(笑)アメリカへは老化の研究をしに?
早野:
大学で興味を持ったのは研究成果を日常医療に役立てる“トランスレーションリサーチ”でした。しかしまだ日本では生命現象を人に役立てる環境が整っていなかったため、渡米しました。老化の研究者であるDavid A. Sinclairという師匠の下で実際に研究を人に役立てているところを学び、現在は日本にいる坪田先生という眼科医の下で働いています。白内障などの目の病気は全て老化とともになるんです。目の病気を理解する上で老化のことを理解したいと坪田先生に呼ばれ帰国しました。実は坪田先生、口癖が「ごきげん」で、この方のラボは「ごきげんプロジェクト」という名前で、眼を良くすることで患者をごきげんにしたいと願っています。
田村:
ZAGUMIのごきげんに生きたい、と通ずるところがあり、今回のコラボに至った訳です。

― 参加者の理想の年の重ね方。「比較とジャッジをしない」

―参加者の理想の年の重ね方。「比較とジャッジをしない」
早野:
帰国して驚いたのは、高齢者が多いことです。日本は世界で一番の長寿国で、2050年には40%が高齢者、今の倍近くにのぼります。今後高齢者をどう捉えて彼らの幸せを作っていくか。新しい価値観を与えられるかが非常に重要になってきます。
田村:
今すごく”ぞく”っととしたのが、2050年65歳以上っていうことは私たちがその中に入っているということですよね。
参加者:
私は大学まで苦なくやってきたんですが、風景がすべて曇って見えていたんですよ。色がない人生って面白くないんです。今考えると、あのときの自分の人生は老化だったんだなと感じています。30代のときにバーテンダーを始めてから色が見えるようになってきました。つまらないをどう楽しいに転換していくのか。転換が機能すれば楽しく年を重ねられると思っています。革のバッグがつややかになっていくような、そんなイメージです。
参加者:
私は自然な状態を受け入れます。ヨガには今の状態を受け入れるという考えがあります。高齢者の方にもヨガをリハビリの一環で教えているのですが、今の高齢者はそれが受け入れられない辛さを抱えているように感じていて…。生まれた以上いつか人生を終えます。できることができなくなったり、自分を受け入れ方の違いで、特に仕事を終えたあとの人生が変わってくるのではないでしょうか。私はそう考えています。
田村:
その精神状態に到達できるのはすごいですね。どうしてそう思えるように?
参加者:
自分の好きなことをやっているからだと思います。転職する前は私自身受け入れることは難しかったのですが、今は好きなことをしているので無理をしない生き方が出来ています。
早野:
自分を受け入れるということは高齢者にとって難しい問題なんです。例えばアルツハイマーを患っている方は記憶の障害なので、今まで覚えていられたことが覚えられない、忘れてしまう恐怖感を受け入れるということ。どうやったらそれを受け入れられるのかは非常に難しく興味深い課題でもあると思っています。
参加者:
比較とジャッジをしないことは大切にしています。体がこうしたいからこれでいいのに、周りと比較してしまうから受け入れづらくなってしまうんだと思います。
田村:
その考え、改めていい考え方だと感じます。

- 世間一般的に言われる老化は嘘!? 女王蜂と働き蜂に見る人の寿命

そもそも「老化」とはどんな状態のことをいうのでしょうか。

早野:
高齢者は今までできたこと、特に誰かにしてあげられたことができなくなるんです。働いたり、人のために役立つという充実感がなくなってしまう。頭も固くなるし、精神的にも弱くなってしまいます。その点で、高齢者とホームレスは似ているんですよ。 幸せの感覚は人にもよりますが、身体能力を上げることでしてあげることを増やす、それが幸せに繋がるという思いから、薬の開発をしています。
早野:
科学的に老化を説明すると、そうですね、皆さん犬と猫はどちらが寿命長いと思いますか?
参加者:
犬!
参加者:
猫?
早野:
そう、猫です。マウスのような小さい動物の寿命は2年ですが、猫だと20年くらい行きます。犬は15年程度。体が大きくなると寿命も長くなるというセオリーがありますが、猫は外れています。
参加者:
心臓の拍動回数の総数も寿命と関係があると聞いたことがあります。
早野:
そこから外れている動物はたくさんいますよ。人間もそうです。
田村:
世間一般的に言われていることは、あまり鵜呑みにしてはいけないんですね。
早野:
世の中で言われている老化、エイジングって嘘とも言える強引なこじつけが多いですよ。ロイヤルゼリー食べたら健康になるという話もありますが、実はこれ、働き蜂と女王蜂の話からきています。働き蜂も女王蜂も、生まれた瞬間はみんな兄弟です。その中でロイヤルゼリーを食べた蜂が女王蜂になるんです。働き蜂が大体2週間に対して、女王蜂の寿命は2年。同じ兄弟なのにこんなに違うんですよ。これは蜂の話なのでもちろん、人間はそうなりませんけどね(笑)この話から分かることは生命は生まれたあとに寿命が決まるということ。
アメリカで一番寿命が長い人は収入トップ1%に属しています。次にトップ5%。保険制度が要因かと論じられていましたが、最近では教育だと言われています。生まれてから死ぬまでの間、どんなものを食べ、どんな運動をし、どう生活してきたのか。トップ1%や5%と私たちの違いはこの教育や食事を徹底して意識されていることなんです。蜂と人間との共通点はこの、生まれた後に何をするかということで、これが寿命にとってとても重要だと考えています。さらに言えばどんなものを食べ、どう生活してきたのかは、体調として2~3世代先までいくとマウスの実験で分かっています。
田村:
結構怖いですね… 実は私の実家はパン屋なんですが、戦後祖父がパン屋を創業し50歳まで働き詰めだったんです。カップラーメンばかり食べて、添加物てんこ盛りの生活をしていたんですが、それが自分にも多少影響しているということですよね?(笑)
早野:
自分の食生活が子どもや孫の代まで影響すると思うと、考え方も変わってきますよね。

- 健康寿命からみる「幸せ」のかたち

早野:
アンチエイジングについて知ってもらった上で議論したいことは「幸せ」についてです。年齢によっても、健康状態によっても「幸せ」の価値基準は変わってきます。皆さんの人生のゴールは何でしょう。僕はそのゴールに向けて今できることをどう考えているのかという部分に興味があります。皆さんのようにサプリメントを服用したり、適度な運動をしていることは投資ですよね。もう一つ、自分を取り巻く環境にどうアプローチをかけるかも非常に大切な問いになります。
早野:
ある社会実験で、二名の人間に同じ質問を投げかけました。夢や幸せについてです。一方は「ギリシャへ旅行へ行きたい」「こんな仕事をしたい」と話し、もう一方は「今日起きたことが幸せ」「顔に気持ちいい風があたったことが幸せ」と話しました。実は質問した片方は、ガン患者です。このように自分が健康であるか否かで幸せの基準が全く異なります。ただ一つだけ、どんな方にも言えることがあります。それは人間関係の在り方です。
ハーバード成人発達研究という団体では、10代から老いて亡くなるまで人間を観察できないかと、アメリカのスラム街に住む貧困に苦しむ少年たちを対象に研究をしています。インタビューし健康診断を受けてもらい、5年、10年と観察。中には弁護士や靴職人、果てや大統領になったものもいます。しかし一方でアルコール依存症になったり総合失調症を患う人もいます。彼らを隔てるものは一体何なのか。今までの研究で明らかになったことは、よい人間関係を育む人ほど健康で幸せだということでした。関係性の質がいいと満足度が高いのです。

- これからの社会を生き抜く上で大切なことは?

最後に早野さんからこんな問いがありました。

早野:
北欧には「尊厳死」が存在します。死にたいときに死んでいい。日本だと「死んではならない」教育があるため、病気になっても延命措置が施されます。皆さんはこの制度について、どう考えますか?
参加者:
例えばもう治らない病気に侵され、無理に延命をするなら選択肢の一つとして選べることは良いのではないかと思います。
早野:
患者でも高齢者でもなく、2,30代の若者も使用が許されています。病気だからではなく命の選択が可能なんです。使用する人は実際多いのが現状です。
参加者:
自分の周りにも自殺を選んでしまった方は少なからずいます。命の選択ができると、衝動的に死を選んでしまう人にとって、すぐに手を出せるものだと余計助長してしまうのではないでしょうか。
早野:
2.30代の死因の一番は自殺なんです。今の日本社会の「死ねない」ということが引き金になっている気がして、逆に「いつでも死ねる」社会になるとそこで立ち止まる人も増えるんじゃないかと思っています。
参加者:
ちなみに、利用される方はどんな方が多いのでしょう?
早野:
健康的な問題が一番みたいですね。このまま生きていてもしょうがいないと思う方が使われる。日本は40%以上が高齢者になったとき、今以上に高齢者に使う医療費がかさみます。そうすると子どもたちに使うお金がなくなってしまうんです。そのときにもし「尊厳死」を認めたときにいじめに発展すると危惧しています。2,30代の自殺にはある程度の抑止力になり得ますが、病院で保険を受けている高齢者が増えると「どうして死を選ばないのか」と周りからいじめを受けるかもしれません。命の選択ができる一方、こうした新たないじめが生まれる可能性があるのです。
田村:
複雑性が増してきますね。生と死は本人だけの問題ではなくなってきていますし、みんなそれを分かってきています。それじゃあどうジャッジするのか、それこそ答えがなく多様化していく中で正解を築いていかなくちゃいけない。
参加者:
こういう話って日本だとタブーな雰囲気がありますよね。死にたいくらい辛い気持ちを抱えていたとして、それを打ち明けられる場が日本には少なすぎると感じています。
早野:
人生のベースはやっぱり人間関係なんですよね。これは人の人生を追った大規模かつ長期間の調査で分かってきています。そして、いい人間関係を作るために個人の努力はもちろん必要ですが、ひとりでは関係性を築くことができません。周りの人と支えながらそれを自分なりに作って行くことが大切になってくるんだと思います。
田村:
早野さんと話が共通するところで彼とも考えたいテーマですが、生きる上で相手を理解しよい人間関係を築くための知恵や知識をどう体得するか、人が幸せに生きる上でのその重要性が高まっているのを感じます。ZAGUMIでも取り組みたいと思っています。

編集手記

SNSの台頭により人との関係性がより多様化しています。
人と繋がりやすくなった一方で、関係性が可視化することにより孤独感を抱く人も多いのではないでしょうか。
人生100年時代、健康に年を重ねたいものですが、健康に生きることだけが幸せ、ということではありません。
では何が自分にとって幸せなのか? この問いについて私たちはあまり真剣に考えてこなかったのかもしれない、そんなことをこのセッションを通して感じました。ZAGUMIを通して皆さんと考えていければうれしいです。
そして、このセッションを彩ってくれイタリアンも美味しかった! ありがとうございました。

ケータリング提供:喜びの屋台 バンカレッラ・ジョイア

山崎 麻梨子
山崎 麻梨子 1990年生まれ。神奈川県横浜市出身。大学卒業後オーガニックのセレクトショップにて販売員として働く。もっとつくり手の想いに触れたいと、日本のものづくりを伝えるwebメディア「セコリ百景」に参画。株式会社アスノオトにて、都市と地域を繋ぐコーディネーターを育成する地域共創カレッジ事務局も務める。
レポート一覧へ戻る